熊本地震でも適用された「被災マンション法」の解説と課題

2016年4月に震度7の揺れを観測した熊本地震で、熊本市内のマンションにおいて、19棟が全壊、21棟が大規模半壊、52棟が半壊しました。
しかし、それらの大きな被害を受けた分譲マンションでは、区分所有者の同意を得るのが難しく、解体や補修に向けた手続きが難航しています。

そこで、2016年10月5日から、被災したマンションの取り壊し要件を緩和する「被災マンション法(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」)」が熊本地震でも適用されることが決まり、復興の迅速化が期待されています。

では、「被災マンション」の制度は、どのような場合に適用されるのでしょうか。

「被災マンション法」とは?

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被災マンション法は、大規模災害時に被災地の復興を迅速に進めるため、被災マンション所有者の多数決で解体や再建、売却の決議ができるように1995年に制定された法律で、2013年に改正されました。
マンションは、大規模災害時での解体や売却などには所有者全員の合意が必要となります。しかし、「被災マンション法」が施行されたことで8割以上の同意で解体や跡地の売却が可能になりました。

マンションの全部が滅失した場合

住んでいたマンションが滅失してしまった場合、建物を再建したいか、敷地を売却して新たな生活の場を設けたいかで、住人の意見が分かれることになるかと思います。
そこで、マンションの敷地を共有している敷地共有者は、下記の決議をすることができます。ただし、熊本地震の場合、適用期限は2019年10月4日までです。

①マンションを再建する決議
再建決議集会をするまでには、まずは管理者が集会の2カ月前までに決議案の要領及び再建を必要とする理由を通知し、集会の1カ月前までに説明会を開催する必要があります。
そして集会では、敷地共有者の5分の4以上の多数決でマンションを再建する内容の決議をすることが可能になります。

再建決議に招集した者は、決議に参加しなかった者に対して、その敷地共有持分等を売り渡すように請求することができます。

②敷地を売却する決議
敷地を売却する決議に関する手続きは、基本的に再建決議の場合と同じです。
ここでは、誰に売却するか、売却による代金の見込額はどの程度かについて話し合います。

再建や敷地売却に参加する者が参加しない者に売り渡しを請求すると、参加しない者は自分の権利を売り渡さなければないませんが、この場合、時価当額の代金が支払われるので経済的な損失はありません。

建物が一部滅失した場合(大規模一部滅失の場合)

マンションの大規模一部滅失の場合では、「建物の取り壊し決議」「建物の取り壊し・敷地売却決議」「建物・敷地売却決議」の3つの選択肢があります。
マンションを所有している区分所有者は、下記の決議をすることができます。ただし、熊本地震の場合、適用期間は、2017年10月4日までです。

①マンションの取り壊し決議
マンションの取り壊し決議においては、管理者が、集会の2カ月前までに決議案の要領、取り壊しを必要とする理由、復旧や建て替えをしない理由、復旧をする場合に必要とする費用の概算額を区分所有者に通知
また、集会の1カ月前までに通知した内容の説明会を開催する必要があります。

区分所有者の人数及び議決権の双方の5分の4以上の多数決でマンション取り壊し内容を決議します。
ここでは、マンションの取り壊し費用の概算額、取り壊し費用の分担に関することを話し合います。

②建物敷地売却決議や建物取壊し敷地売却決議

建物敷地売却決議や建物取壊し敷地売却決議の手続きは、基本的に取り壊し決議と同じです。

また、建物敷地売却決議や建物取壊し敷地売却決議をするには、マンションだけでなく、敷地の処分も行うことになるので区分所有者の人数及び議決権の5分の4以上に加え、敷地利用権の5分の4以上を有する者が決議に賛成する必要があります。

建物敷地売却決議では、建物と敷地を誰に売却するのか、売却による代金の見込み、各区分所有者が得ることができる金額の額の算定方法を、建物取壊し敷地売却決議においては、マンションの取り壊し費用の概算額、取り壊し費用の分担に関すること、敷地を誰に売却するのか、売却による代金の見込み額をそれぞれ話し合います。

取壊しや建物敷地売却、建物取壊し敷地売却に参加する者が、参加しない者に売渡しを請求した場合、参加しない者は自分の権利を売り渡さなければなりませんが、時価相当額の代金が支払われることになるので、参加しない者に経済的な損失はありません。

「被災マンション法」の過去の成果と課題

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引用:NHK NEWS WEB

被災マンション法の適用は、今回の熊本地震以前にも、阪神大震災や東日本大震災に続き3例目です。
破壊したマンションが放置されることが防げるという点において、被災マンション法の適用は期待がかかるものの、実際に解体や売却などにに対して「8割以上の同意を得る」というのはそう簡単ではありません。

被災マンション法には、上記でご紹介した通り、マンション再建のほかにも選択肢がたくさんあるため、住民にとっても住んでた家が失われたりしているという状況下で、何を選択するかはマンションの管理組合にとっても重要です。

また、東日本大震災では、仙台市内の3棟で活用されましたが、そのうち1棟の売却決議は、裁判所から手続き不足を指摘され、無効となる事態も生じてしまったようです。

反対の意見を無視して推し進めたことで、後からトラブルになるなどいうこともありえます。

熊本県全体では、被災マンションの正式適用により、公費解体の申込があった住宅などは1万8千棟を超えました。(2016年10月14日現在)
そのため、管理組合の方が安堵する一方で、解体業者が不足しており、順番はいつ回ってくるか分からない状況のようです。また、熊本県内においては、建築現場の人手不足に加え、柱や壁などの復旧方法を知っている職人が少ないという指摘の声もあるのが現状です。

今後は、法律や建築の専門的な説明会や、管理組合を支援する窓口などの行政や専門家による更なるサポートが必要になるでしょう。

「被災マンション法」を適用するための備えと注意点

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今回の熊本地震では、管理組合の方が、被災マンション法の適用を見越して地震直後から解体を前提に住民の同意を得ようと動き出しましたが、管理組合に残っていた名簿は固定電話の番号ばかり…。
住人は、親戚の家や避難所にそれぞれ避難しているため、連絡を取ることが難しかったそうです。

いつ、またどこの地域で災害は起こるか分かりません。
まだこの被災マンション法について知らないという方も多いと思いますし、決して他人事ではありません。では、分譲マンションに住む人たちは今後どのような備えをすべきなのでしょうか。

被災マンション法の適用には決議があり、住民との話し合いが必要になってきます。
今回、熊本県で大規模半壊と判定されたある分譲マンションでは、順調に住民との話し合いが進み、補修工事に移りました。その理由として餅つき大会など日頃から住民の交流が盛んだったことが挙げられます。
このようにいつ災害があり、住民が協力し合ったり、助け合う必要が出てくるかわかりません。やはり日頃からマンションの補修の仕方や合意形成の方法について話し合ったり、管理組合の活動を充実させることが大切なようですね。

まとめ

地震が発生後に「被災マンション法」の適用に至るまでにも、難しい課題があることが分かりましたね。

しかし、今回の熊本地震でのマンションの被害の実態と、この被災マンション法という制度があると改めて知ったうえで、管理組合の中で資金計画を徹底すること、マンションの住民同士の議論、交流の場を日頃から持つことの大切がお分かりいただけたのではないでしょうか。

いざいうときに行動に移せるよう、備えをしっかりとしておきましょう。