平成28年3月から5月にかけて、大阪府内の解体工事現場において墜落死亡災害が連続して発生しました。建設業界における死亡災害の比率は35%と他業種と比較しても非常に高く、死亡災害の約40%以上もの原因が墜落によるものです。
痛ましい災害を起こさないために、墜落死亡災害の原因を理解して、二度と発生させないための対策に取り組まなければなりません。墜落災害における現状を理解するためにも、大阪で発生した3件の災害を取り上げ、実際に行われた対策を振り返り安全対策の見直しを行うことが重要です。
大阪府内で発生した墜落死亡災害
平成28年に大阪府内で連続して3件の墜落死亡災害が発生したことが報じられました。
【平成28年3月】
大阪府鶴見区内でスレート屋根の解体作業中に、スレート屋根を踏み抜き高さ4,5メートルから墜落。
【平成28年4月】
大阪府浪速区内で地下における雨水の排出作業中に、地上に設置した手すりが外れ地下3,45メートルに墜落。
【平成28年5月】
大阪府浪速区内でビル4階において床板の溶断作業中に、スラブの一部落下により出来た開口部から墜落。
災害を起こした3つの事業者は、10月初旬に大阪中央労働基準監督署により書類送検されました。
相次いで発生してしまった墜落災害は、なぜ起きてしまったのでしょうか。
墜落災害の原因
墜落災害による被害を防ぐためにも、墜落災害がなぜ起きてしまったのか、大阪府で発生した災害事故に関する要因について振り返ります。
労働安全衛生法の違反
鶴見区内で3月に発生した墜落災害は、解体作業中に個人事業主が現場を離れている間に起きました。現場を離れている間の代理として、作業指揮者の選任を怠ったことが問題とされ、労働安全衛生法に違反したと判決が下りました。
平成26年に行われた臨検監督では、監督を実施した約300の現場のうち、59%もの現場で労働安全衛生法の違反が認められたことが東京労務局により発表されています。中でも墜落・転倒防止に設けられた労働安全衛生法の違反は、40%近くの現場で認められました。
大阪府鶴見区内で発生した災害だけではなく、解体工事を含む多くの建設現場で労働安全衛生法の違反が起きていることが、墜落災害を引き起こす要因と言えるでしょう。
安全対策の欠如
浪速区内で5月に発生した災害では、安全帯の使用を監督するべき状況にあったにも関わらず、現場責任者による安全帯着用の指導を怠っていました。同区内で4月に起きた災害でも、墜落の恐れがある現場で安全帯の使用がなかったことが問題の一つとして挙げられています。
労働者が危険な場所での作業を行う場合、足場の設置が困難な際は安全帯等を使用して墜落を防止することが、労働安全衛生規制で定められています。また、事業者は安全帯の使用等による墜落防止の措置と共に、設備に異常がないか随時点検しなければなりません。危険な高所での作業にも関わらず、安全帯の使用・指導かなかったことが災害の要因と言えます。
大阪府における墜落災害防止の緊急対策
大阪中央労働基準監督署は解体工事における墜落死亡災害撲滅に向け、3件目の災害が起きた平成28年5月から8月にかけて緊急対策を行いました。緊急対策の内容として、安全帯の使用・安全な手摺りの設置を励行する「命綱GO活動」の取り組み・安全衛生パトロールの強化が実施されました。
災害防止のため「命綱GO活動」では、安全帯に関する着用の確認・点検、設備の設置や手順の見直しがポイントとして挙げられました。
命綱GO活動のポイント
1安全帯着用確認
建築現場へ入場する際に、安全帯を着用しているか確認しましょう。
2安全帯使用確認
適宜作業場所を巡視し使用状況を確認しましょう。
3安全帯の点検
安全帯の点検状況を確認し適正な安全帯を使用するよう指導しましょう。
4危険体感教育の実施
危険を体感させるようなビジュアル教育を実施しましょう。
5安全帯取付設備(親綱)の設置
規格を具備した親綱を適切に設置しましょう。
6作業手順の見直し
安全帯を確実に使用するための作業手順を作成し周知しましょう。引用:命綱GO活動
また、命綱GO活動の取り組みと共に、具体的には下記項目の実施が促されました。
・高さが2m以上の箇所で墜落の危険があるときは、作業床を設ける。なお、困難な場合、防網の設置、安全帯の使用等行う。
・高さ2m以上の作業床の端、開口部等で墜落の危険がある箇所には、囲い、手すり、覆い等を設ける。
なお、開口部等に手すり等を設けるときは、親綱等に安全帯を掛けて作業を行うこと。
・スレート等の屋根上で作業を行う場合、踏み抜きの危険があるときは、幅が30cm以上の歩み板を設け、防網を張る等踏み抜きによる危険の防止を行うこと。
緊急対策が実施された結果、現在まで新たな死亡災害は発生していません。
墜落災害防止対策の見直し
墜落・転落災害の現状を踏まえて、厚生労働省では平成27年7月1日に足場からの墜落防止対策の強化が施行されています。
災害を起こさない為には、建設業界関係者が一丸となり墜落・転落防止のための対策が出来ているかの見直しを行う必要があります。また、建設業界関係者だけでなく、社会全体で災害を起こさせないよう意識を向けることが重要なのではないでしょうか。
まとめ
大阪で発生した墜落死亡災害を振り返り、墜落災害が起きる原因と対策の一部を考察していきました。大阪だけではなく建設業全体で見ても、墜落・転倒による死亡災害は平成25年で約46%、平成16年から毎年約40%という非常に高い比率を占めています。
災害が起きる要因の一つとして足場の点検や安全帯の使用・確認等、労働安全衛生法で規定されている墜落防止措置を怠っていることが挙げられます。
痛ましい災害を根絶するため、過去の災害がなぜ起きてどうすれば防げたのかを理解すると同時に、関係者全員が事故を起こさないための意識を持ち、業界全体で安全対策が出来ているかを早急に見直す必要があるのではないでしょうか。